成果主義vs年功型人事

成果主義vs年功型人事

 

1. はじめに

企業の競争力で「人」資産の重要性が増しており、技術、ブランドとともに無形資産の最たるものとして、「人」資産の活用が求められています。

企業は競争力を強化するために、ビジネスモデルや人事制度など様々な仕組みを作りますが、その仕組みが効果的に機能するかどうかは社員がその仕組みの活用にどれだけ熱意を持って取り組むかに大きく依存します。従って、社員の動機付けとなる「評価・報酬制度」が極めて重要になります。

社員の評価・報酬制度に関して、日本でも2000年代以降成果主義が導入・定着してきていますが、その効果や満足度には賛否両論があります。成果主義と年功型人事ではその特性がどう違うのかをみて、自社にとってより良い評価・報酬制度を考えていくことが必要です。

2. 成果主義

成果主義とは貢献度に応じた処遇をして、高い能力や技術を持つ社員の意欲を高める評価・報酬制度です。各個人が組織の中で果たすべき役割・目標を明確にして、その達成度により処遇を決めます。

1990年代後半から日本企業でも成果主義が急速に導入されてきました。その論拠は「年功序列は悪平等であり能力のある人間のやる気をそぐ。年齢に関係なく実力で賃金や職位を決めるべき」ということでした。ただ、企業業績の悪化の中でコスト削減が至上命題となり、人件費抑制を円滑に進めるための論理として活用された面もあります。

成果主義の目的は本来、成果に応じて社員の評価・報酬配分を行うことで、社員のモチベーションアップ、人材育成を促進し、人材活用の強化、企業の競争力強化につなげることです。グローバルな競争を勝ち抜くために多くの企業が導入を図り、現状68割の企業が導入しているといわれます。

3. 年功型

年功型は社員の貢献に対して報酬で報いるのではなく、次の仕事の内容やポストで報いる制度です。報酬は生活費を保障する観点から決めており、年齢別生活費保障給型の賃金カーブをベースとしています。

年功型は、終身雇用・企業内組合とともに日本の人事制度の3大特徴と言われ、高度経済成長にマッチした日本型経営として定着してきました。社員は入社後、技術・ノウハウを蓄積していくとともに、チームワークを強化して、会社への帰属意識を高めていきます。年功型は「会社のコミュニテイ化」に貢献して職場満足度を高めてきたといえます。

ところが90年代に入り、日本経済が成熟段階に入ると共にバブル崩壊後の企業業績の低迷で、組織の拡大が困難になり、年功型の人件費総額が負担増になってきたことや、成果主義を採る欧米企業との熾烈な競争に対応して有能な人材を確保・強化していくために、90年代後半から年功型から成果主義への移行が増えています。

4. 長所と短所

成果主義の長所は、達成すべき目標を明確にし、達成した成果や貢献度をきちんと評価し、報酬で報いて、モチベーションをアップする点です。成果主義を導入して効果が見られる企業では、ビジネスの競争力や業務効率の向上、社員個々人の能力アップや意欲向上などが見られます。

問題点は「自社に見合った成果主義の制度を作り、運用する」ことが難しい点です。拙速に成果主義を導入して制度の設計や運用方法を十分に検討しなかった場合、社員から適正な評価ができていないという不満が高まり、社員の納得性が得られず、かえってモチベーションがダウンします。また、社員同士の競争意識が過剰になってチームワークが弱まったり、仕事に対するゆとりが弱まったりする場合もあります。成果主義の問題点として挙げられている主な項目は目標設定が短期業績に偏りすぎていたり、評価スキルの未熟さなどの運用面に起因しています。

従って、成果主義が効果を上げるためには以下の点が不可欠といえます。

-成果主義の目的がトップから末端まで浸透しており全社一丸で導入する

-会社の競争力強化と合致した目標設定を行い、評価基準を明確にする。長期的な観点も踏まえた目標設定やプロセスの評価など、目標設定の妥当性を高める。

-評価プロセスの透明性、公平性をできるかぎり保つ

-評価者のスキルアップを図り、コミュニケーションやフィードバックを十分に行い、評価の納得性を得る

-社員の成長を会社が支援する姿勢を打ち出し、不足している能力・スキル・知識を知らせ、その獲得のシステム・仕組みを用意する

実際に成果主義の導入を図った場合、制度の運用に関して毎年組合のアンケート調査を行い、その改善提案を検討し取り入れていくことや、評価者のスキルアップを継続して行っていくなどの対策が重要です。また評価の高い人以外の社員のモチベーションアップをどう図っていくかも工夫が必要とされます。

他方、年功型の長所はチームワークや愛社精神を強化することです。賃金が毎年大きく変動せず、右肩上がりで賃金が上昇し、上昇度合いが予測しやすいため、住宅ローンを組んだり、長期の生活設計がし易くなります。従って、社員は生活面で安心感を持ち、会社への帰属意識を高め、仕事に打ち込んでいけます。また、会社にとっては、成果は報酬ではなく次の仕事やポストで報いるため長期にわたって人材を育てる視点が強くなります。

欠点は、能力や実績のある人も報酬に大きな差がつかないため、労働市場が流動化した場合、彼らが他社に移籍するリスクが高まることです。特にITや金融などの若手が活躍する比重が高い業種では、その成果に比較して報酬が低くなり、社員のモチベーションがダウンする恐れがあります。また、年功型では低成長になると社員構成が逆ピラミッド型になり、賃金総額が増大して人件費が高くなり、企業のコスト競争力が低下します。

5. まとめ

成果主義が良いか、年功型が良いか、はじめに制度ありきの答えはありません。「本当に自分たちの会社に適した制度は何か」を自問することが出発点です。

成果主義の導入企業が主流を占める中で、年功型の長所を再評価して年功型の良い面を取り入れる動きも出てきています。今年2月の日経新聞では機械工具商社や自動車用ゴム部品メーカーが年齢給と成果反映給を半々にした制度を採っている事例が紹介されていました。ベテランの技術力が高い製造業などでは入社後の経験は重要であり、ベテランが経験を生かして若手を指導することが現場力を高めるために欠かせません。オペレーションが重要な事業ではとりわけ経験の価値が大きくなります。

成果主義でも、自社の成果主義の満足度が低い場合、成果主義が悪いのではなく、やり方が悪いのだという認識が浸透してきています。自社に合った成果主義を目指して改善を続け、社員の納得性を高めていく努力が始められています。成果主義でも今後の方向性は、会社の競争力を高めるためにどういう人材育成が必要かを明確にして、それに合致した目標設定や評価基準の設定、仕事の内容やポストの設定を行うことだといわれています。

-会社のコアバリュー(長期にわたって発揮してほしい能力)を明確にして、成果主義の目標を示す

-会社が求める能力(コンピタンシー)を評価項目に入れて、評価の結果を適材適所などにも反映する

最も重要なことは、今の会社の課題は何かを自分たちで考え、仕組みを工夫し、常に社員のアンケート調査などで満足度・不満点をチェックしながら運用して改善していくことです。

 

成果主義

・貢献を報酬に反映させる。各個人が組織の中で果たすべき役割・目標を明確にして、その達成度により処遇を決める

・成果に応じて社員の評価・報酬配分を行うことで、高い能力や技術を持つ社員のモチベーションアップ、人材育成を促進し、人材活用の強化、企業の競争力強化につなげる

・ 評価の納得性が得られる制度設計や運用が難しい。継続的改善が重要

-会社の競争力強化と合致した目標設定を行い、評価基準を明確にする

-目標設定の妥当性を高める:長期的な観点も踏まえる、プロセスの評価など

-評価スキルの向上:コミュニケーション、フィードバック

・ 評価が低いなど評価に納得しない社員のモチベーションダウンの恐れ

-社員の成長を会社が支援する姿勢を打ち出す

-不足しているスキル・知識等を知らせその獲得のシステム・仕組みを用意

 

 

年功型

・ 貢献を次の仕事やポストで報いる。報酬は年齢別生活費保障給型の賃金カーブをベースとする

・ 技術・ノウハウを蓄積して経験の価値を高める。経験を生かして若手を指導

・ 会社への帰属意識を高め、チームワークが強化され、「会社のコミュニテイ化」で職場満足度も高まる

・ 能力や実績のある人も報酬に大きな差がつかないため、労働市場が流動化した場合、彼らが他社に移籍するリスクが高まる

・ 組織が拡大し続けないと社員構成が逆ピラミッド型になり、賃金総額が増大して人件費が高くなり、企業のコスト競争力が低下

 

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