新興市場での日本企業の現状と今後の展望

新興市場での日本企業の現状と今後の展望

2009.10.27

 

1. 新興市場への事業進出とは

リーマンショックからの世界同時不況以降、今後の世界市場の成長の中心が欧米先進国市場から、BRICsVISTA等の新興市場に移行したことが一層明確になってきた。

BRICsVISTAを合わせると、人口で約33億人(世界の半分強)、GDP10兆ドル前後(世界の約15%)と巨大な潜在市場規模となる。(表1 BRICsの人口とGDP、表2 VISTAの人口とGDP参照)BRICsの経済規模は2050年にかけて現在の10.7倍に、VISTA14.4倍に拡大すると推定されており、その後にネクスト11*と呼ばれる成長候補国も続いて、豊富な若年人口と資源に恵まれたこれらの国で購買力を持つ中間層が増加していけば、世界の消費市場は今後新興市場が主役となっていく。中国のGDP2008年に43270億ドルと日本の49238億ドルに迫っており、2009年には日本を抜き、米国に次ぐ「世界第2位の経済大国」となるだろう。

 

世界人口の約7割を占める40億人が、年間所得3000ドル(約27万円)未満のBOPBottom of pyramid)と呼ばれる低所得層である。1この膨大な未開拓の低所得層から、新興国では経済成長の結果、ミドルマーケット(中間層や新中間層)と呼ばれるボリュームゾーンが生まれてきている。BCGの植草氏によれば、新興国の年収12120万円程度のミドルマーケットを合計すると、人口10億人、GDPで世界第10位の国に相当する。2

たとえば、インドでは年収18万円未満の低所得層が1995年度では8割を占めていたが、2005年度では6割強に、2009年度予測では5割へと急減している。替わって台頭したのが、年収40万円~200万円の中間層と年収18万円~40万円の新中間層である。2009年度予測値ではこれらの中間層(ミドルマーケット)が合わせて5割、約1億世帯のボリュームゾーンを形成している。(表3インドの所得階層別世帯数参照)

 

中国でも、上海復旦大学とHSBC銀行の共同実施調査によれば、中産階級(年収7500ドル~2万5000ドル)の数は2006年時点で約3500万人に達し、2017年には1億人を突破する見通しである。3

世界の大手企業は2000年代半ばから新興市場の開拓に本腰を入れ始めた。他方、日本企業は、新興市場へのハイエンド商品の参入や成功例は多いが、ボリュームゾーンであるミドルマーケットを本格的に開拓した成功例はまだ少ない。ミドルマーケットは日本企業が優位性を持つ高機能・高品質商品では戦えない。顧客が求める品質や機能を備え、しかも彼らにも手が届く低価格の「ボリュームゾーン商品」の開発が必要となる。高品質へのこだわりから脱皮して、本気で「ボリュームゾーン商品」の開発に取り組む覚悟が求められる。

日本市場は、このまま少子高齢化が続けば、個人消費が2008年の287兆円から2050年には215兆円、約75%に縮小すると試算される。(4日本の消費予測参照) 日本企業が今後の成長を求めるなら、先進国市場だけでなく、新興市場の開拓は避けられない。

 

新興市場の開拓では、競争相手は世界の大手企業と現地の急成長新興企業となる。新しい市場ニーズと競争環境の下で、「ボリュームゾーン商品」が価格競争力を持つためには、開発・生産プロセスの抜本的な見直しが必要である。すでに新興市場に進出している世界の大手企業や日本企業がどう取り組んでいるのか、公表事例を中心にその事業進出パターンと取り組みのポイントを見ていきたい。

 

2. ミドルマーケットへの進出事例

(1) 客が求める「市場品質」**商品の開発

1)ワールプールのブラジル洗濯機事業

ブラジルでは低所得世帯が約3000万戸あり、国全体の消費の1/3を占める。洗濯機を所有する世帯は約1/4。ある統計では低所得の人々が欲しがっているものは1位が携帯電話で、2位が洗濯機だった。

アメリカの家電メーカー、ワールプールは1998年にアメリカの省機能版の洗濯機を小売価格300ドルで発売したが、平均的なブラジル人の月収は約200ドルなので、当然売れなかった。ワールプールはブラジルの消費者の嗜好を調査して、新しい低価格モデルをゼロから設計し直した。「既存のモデルの機能をただ削ぎ落とせばよいという問題ではなかった。イノベーションを行なう必要があった。」(ワールプールブラジル子会社の洗濯機技術部長)

新製品開発はブラジルで行ない、低価格を実現するために、設計チームは洗濯機の基本的な動作原理まで遡って研究した。「イデアル」と名づけられた新しいモデルは以下の特徴を備えていた。

-普通の洗濯機はギアの組み合わせで各種の機能(攪拌、回転など)を切り替えるため、部品数が多く、工場での組立にも手間がかかる。新しいモデルは構造を単純化して、ギアを使わずに1つの駆動装置で洗濯や脱水ができるようにした。脱水時の回転速度が遅めで、衣服が湿っぽいという欠点はあったが、モニター調査を行なった結果、この程度の回転性能でも十分だと判断した。

-容量は4キログラムと少なめに設定。

-消費者の要望で、外観を見栄えよくして、また上蓋は透明のアクリルにして、洗濯中の様子を外から眺められるようにした。(シースルーの方が生産コストも安上がりだった。)

「イデアル」は2003年に150ドルで発売されて大ヒットした。その結果、ブラジルに低容量、低価格、半自動式のローエンド洗濯機の市場が創造された。この新しいセグメントでの成功で、ワールプールは製品ラインアップの強化を行い、いくつかの新機能を加えて、全自動タイプを発売した。「イデアル」より割高に販売できたため、収益性は更に高まった。4

 

 

2) フィリップスのインド浄水器事業

オランダの総合電気大手のフィリップスは売上高の3割が新興市場向けで占める。とりわけインド市場に注力しており、2008年度の売上約8億ドル(約800億円)に対して、2009年度は15%以上の成長を目標としている。

インド市場では、ソニーや韓国サムスン電子が年収1万ドル(約100万円)以上の高所得層のハイエンド・マーケットに参入しているが、フィリップスは年収100万円以下の中間層―ミドルマーケットから、年収20万円以下の低所得層までをターゲットにしている。中間層や低所得層市場を先行開拓して、販売網を整備し、強固な収益基盤を先行して築くためである。

たとえば、低所得層向けに、彼らが買える価格で、室内への煙の排出量を最大9割削減し、高燃焼性能で薪の使用量を半分にした新ストーブを2008年に発売した。インドの総人口の7割が住む農村部ではストーブが必需品であるが、伝統的なストーブは薪をくべるため、燃焼効率が悪く、煙も屋内に対流しがちであった点に着目して、インド中部の農村出身者が開発した。

浄水器も、インドの水道水は衛生上問題があり、病気の原因になる場合が多い点に着目した。既存浄水器は性能と手頃な価格の商品が殆どなかった。そこで2007年に中間層向けに、60001万ルピー(約12000~2万円)の価格で、新商品を発売した。都市生活者の消費者調査結果を反映して、新商品は

-停電でも安心して飲めるようにバックアップ用の電池を内蔵した

-交換時期を忘れても良いようにフィルターの交換時期を音で知らせる

-沸騰水よりも味が良くなるようにフィルターの素材を工夫した

その結果、年収40~60万円の都市世帯にヒットして、1年後に20%のシェアを獲得した。5

 

(2) 「ほどほどの品質で低コスト生産」:モノ作りのプロセスの改革

1)富士フィルムのデジカメ事業:ODM***の活用

富士フィルムのデジカメ部門は赤字で、苦境から脱するには従来の改善の積み重ねでは通用しないとトップが決断して、20098月に海外市場で「FujifilmA170」を89.95ドル(約8400円)の低価格で発売した。日本企業の低価格デジカメは通常100ドル(約9300円)が目安なのに対して、見た目も性能も悪くない商品がそれより10%程度安い価格で販売されたため、新興市場やアメリカの低所得層で大ヒットした。

A170は、CCD(電荷結合素子)の画素数が1020万画素、光学3倍ズーム、顔認識オートフォーカス、撮影場面の自動選択、手ぶれ軽減等の必要な標準的機能と性能を備えており、これで90ドルの価格設定でも利益が出るためには、抜本的なコスト構造の見直しが必要であった。

原材料の調達から商品の完成までリードタイムを半減させ、製造原価を2割削減することが開発陣に要求された。リードタイムを短縮するために、生産委託先のEMS****メーカーや部材の調達先は、富士フィルムの工場がある蘇州周辺で新規開拓された。基本設計までEMSメーカー(ODM)に任せ、品質を落とさないように生産工程や品質管理体制を現地で確認し、サンプル部品を細かく評価した。

A170の製造原価は試算では約40ドル(3700円)と推定され、売価の44%の製造原価率を達成している。コスト削減は、デジカメ生産に強い大手ODMメーカーに設計から電子部品の調達まで大部分を委託した点が大きい。大手ODM

メーカーは複数社の委託生産を行なうため、調達部品の購買量がケタ違いに大きく、規模の効果が働く。さらにリードタイムも数分の1に短縮される。

富士フィルムは今後A170の開発で得た低コスト製品のノウハウを上位機種にも展開して、デジカメ事業全体のコスト構造の改善に役立てる。買い替え需要中心の先進国だけでなく、新興市場への積極展開を図り、事業の採算を上げていく方針である。6

 

2) ダイキンの中国空調事業:大量生産方式、スピード重視

ダイキン工業はエアコン販売世界2位、インバーターエアコンでは世界トップの企業である。2006年にOYLインダストリーズを買収して、世界2位になった。これまでの自前主義を捨てて大型買収を行なった狙いはOYLの低価格帯の家庭用エアコンと地域全体を冷やす大型空調の技術であった。今後のターゲットであるBRICsや中東等の新興市場では機能を絞った低価格品が求められる。そのための技術シナジー獲得のスピードをM&Aで買ったのである。

海外売上比率60%超のダイキンはグローバル生産体制を確立し、欧州・北米・中国・タイ等に生産拠点を持ち、現地で生産・販売を行なっている。これらの海外拠点に生産技術を移植するのがマザー工場の滋賀製作所である。

滋賀製作所は、工場面積27万㎡、年間生産能力440万台を誇る巨大工場であり、2003年にトヨタ生産方式を本格導入し、05年には生産管理責任者が優秀と評価され、日本能率協会の「大野耐一賞」を受賞した。設備稼働率95%以上、不良品発生率ほぼ0の「モノ作り」の優良工場である。部品の加工から組立、梱包までの時間は室外機が約8時間、室内機が3.4時間とリードタイムは業界トップ級であり、注文当日に即納できる体制である。

ダイキンのトップは2010年度のエアコン販売世界一を目指して、中国のローエンド市場を戦略的に攻略すると決意した。中国でのインバーター機の普及率は現在7%だが、近い将来省エネ規制が導入されれば市場が拡大するとの見込みである。低価格のボリュームゾーン市場で戦うために、中国の家庭用エアコン最大手、珠海格力電器と業務提携した。滋賀製作所などでこれまで培ってきた「無駄を省いた効率生産」や「歩留まり改善の徹底追求」などの日本のモノ作りプロセスに馴染んだ体質を、日本とは正反対の格力の生産手法を体験することで変えて、モノ作りのプロセス改革を行おうとしたのである。

両社は基幹部品と金型を生産する2つの合弁会社を広東省珠海市に設立し、2010年の量産に向けて準備を進めている。これらの新会社は、日本の総需要の約2倍、1500万台(格力の生産数、シェア4割)という圧倒的な大量生産を前提として、品質よりコスト・スピード優先の作り方を行なっている。たとえば、生産立ち上げを早めるために工場の中に設計部隊が同居する、金型作りもずらりと並べた工作機械をフル稼働させ、単純な加工をつなぎ合わせて数を追及するなど。「ケタが2つ違うモノ作りの発想を受け入れて、コスト競争力をつける、開発や生産立ち上げのスピードを身につける。それなくしては中国や他の新興市場では戦えない。」大金(中国)投資の光安俊二事業企画本部長7

(3) 垂直統合から水平分業、オープン・モジュール型へ

1)ノキアの携帯電話事業

ノキアの携帯電話販売台数は2006年で34700万台に達し、販売市場は120カ国に上る。2000年頃から、ノキアは部品メーカーの技術を積極的に活用する方針を取り、両者の努力により、たとえば、無線通信機・メモリー・電源管理等の様々な機能がワンチップになり、部品コストの削減が進んだ。

さらに開発体制そのものを見直し、部品やソフトをできるだけ共有化する仕組みを加速して、携帯電話の機能に応じて必要な部品ブロックを積み上げていく「プラットフォーム」方式を取り入れた。たとえば、液晶パネルの部品だけでも80種類以上あった部品を標準プラットフォーム化することにより、10分の1程度に絞り込んだ。

現在では携帯電話でもプラットフォーム開発体制がフルに機能しており、PCのように、完全な水平分業、オープン・モジュール型に進化している。その結果、新機種の開発期間と費用は2006年時点で以前の半分程度に低下した。9

ただ、こうした標準プラットフォームの構築と部品のモジュール化は参入障壁の低下を招き、加工組立も台湾の有力ODMメーカーにシフトしている。中国やインドで起こった携帯電話の急増現象が今はアフリカで起こっており、端末の低価格化と競争が一層激化している。8

 

2)日本家電メーカーの薄型TV事業

日本企業は、薄型TVの新製品を投入した当初は先行開発した技術が高度なため、垂直統合モデルの強みを最大限に発揮して、他社より早く新製品を世界市場に投入して先行者利益を享受できた。

しかし、デジタル化の進展で技術の成熟化のスピードが速まり、コモディティ化した結果、携帯電話と同様に、標準プラットフォームの構築と部品のモジュール化による水平分業モデルが主流となり、競合の参入が容易になった。競合企業の多くは専業プレーヤーで、コスト低減と技術の高度化が進み、垂直統合モデルの優位性が低下してきた。さらに新興市場向け低価格モデルに市場がシフトしており、台湾の有力メーカー等のODMが加速している。2009年には液晶TV4割強、5100万台がODMメーカーにより生産される見通しである。

2008年半ばには薄型TVの世界市場でサムスンが約24%のシェアを持ち、2位のソニーは15%強と引き離された。サムスン飛躍の背景には、先発企業がいる先進国ではなく、ロシア・インド・ブラジル・東欧等の新興市場にターゲットを定めて、市場開拓とブランド浸透を行なった地域戦略がまず挙げられる。本社の承認が原則24時間以内に行なわれる意思決定の早さと、コストと機能のベストバランスを追及した商品開発の考え方も成功要因である。たとえばLED利用の超薄型TVでは、ソニーが最薄部9.9mmのハイエンド商品を投入したのに対し、サムスンは技術的には6.5mmが可能でも、使い勝手とコストの見合いで一定数量販売できる25mmで製品化していく。

低価格への市場の構造変化の中で、日本企業の製品差別化、高品質化における垂直統合モデルはかつての優位性から、高コスト体質の弱みへと転換してきている。パナソニックは2008年から本気でボリュームゾーンを攻める決意をした。ソニーは2009年に入り、薄型TVの事業戦略を高付加価値一辺倒から、消費者が求める値ごろ感のある商品を出す方向に見直すことを決めた。各社とも新興市場向け低価格モデルはODM展開を加速させる方針だが、日本でのR&Dも含めた人件費の固定コストや、国内の雇用確保を含めて、ODM展開のスピードがどこまで可能かが課題となってくる。9

 

5. 事例からみた新興市場への取り組みポイントと課題、今後の展望

以上の事例から、新興市場への取り組みポイントを整理すると、ミドルマーケットへの進出では、ワールプール、フィリップスの例から、まず、低価格品は高級品の省機能版ではないという点が明確にされた。さらに低価格の「市場品質」商品開発のポイントは、その市場の顧客ニーズを徹底して調査することで必要な機能を絞り込み、顧客に手が届く価格を見定め、設計を一から見直して、構造を単純化してシンプルにすることであった。構造の単純化がコスト削減につながる。また、現地のニーズをよく知るためには、現地に拠点を持ち、R&Dから生産・販売の全てを行う体制を持つことが望ましい。

富士フィルムの低価格デジカメ事例の成功ポイントは、高機能・高品質へのこだわりを捨て、「市場品質=Reasonable Qualityで低コスト」へと徹底した割り切りを決断し、ODM活用によりコスト削減を図ったことにあった。日本企業は高機能・高品質で優位性を持つため、市場品質へと割り切る決断がなかなかできにくい。トップの決断が重要と言える。

ダイキンの事業戦略からは、世界のトップを目指すには、高技術とボリュームゾーンのコスト競争力の両方が必要だといえる。日本の高機能・高品質生産のモノ作り体制、技術・ノウハウと両立して、全く正反対の「大量生産/低コスト/市場品質」のモノづくり体制、技術・ノウハウをM&Aや提携で迅速に体験して取り込むことが可能であるし、低コスト生産には必要な課題であることが示される。ただし、M&Aではシナジー発揮に時間と調整が必要であるし、提携の場合は自社の技術流出を完全には防げない。その辺を踏まえてリスク・リターンの判断が必要である。

ノキアの携帯電話事業や薄型TV事業の例からは、新製品の開発当初は垂直統合モデルが強みを発揮するが、デジタル家電では技術の成熟化が早く、コモディティ化すると、標準プラットフォームの構築と部品のモジュール化の水平分業モデルが優位性を発揮するといえる。そこでは垂直統合モデルの企業は内部に人件費を固定費として抱えて、リードタイムも遅く、コスト高になり、コスト削減にはODMメーカーへの開発・生産委託が不可欠となる。ただし、どこまで水平分業を推し進めるかは、企業の雇用方針や次世代技術の開発方針とも関わるため、大きな経営課題となる。パナソニックのように他社のコスト競争力を上回る体制を作り、「モノ作りの基本は愚直に夢を追う」ことと考えて次世代の技術を創造していく、そこにパナソニックらしさを求めることも1つの戦略である。10

また、新興国のミドルマーケットでは地元の新興企業と世界企業が競争相手となる。インドでタタが発売した10万ルピー(約20万円)の超低価格車ナノに象徴されるように、急成長の新興企業は先進技術を習得し、地元企業の優位性を活かし、ハングリー精神とスピードでコスト削減を行なう。また、大手世界企業は新興市場に拠点を設けて、開発からローカライズすると共に、バリューチェーンを見直して業務ごとに最適な場所に配置してコスト削減を進める。新興市場のミドルマーケットで戦うにはこうした競争相手に対抗して熾烈なコスト削減競争を覚悟しなければならない。

日本企業はこれまで先進国市場に目を向けて、新興市場にはトップの目が向いていず、新興市場のミドルマーケットへの参入が出遅れていた。しかし、日本企業の参入はまだ遅くはない。トップが世界の30億人のユーザーを取ると本気で決意して、現地企業とも戦えるように、現地のニーズを知り、現地で開発から生産体制を持ち、徹底して実行することが肝要である。必要に応じてM&Aも行なう。

韓国企業が新興市場に進出して比較的成功を収めている。たとえばサムスン電子は薄型TVでは世界のトップ企業である。その成功要因は、第一に新興市場を注力市場と位置付けて、後継者を新興市場担当役員にするなど企業をあげて進出を支えたこと、第二に商品開発時のコストと機能のバランス、第三に本社の承認が24時間以内という意思決定の早さ、第四に新興市場を人材育成の場として人材を投入する、等がある。

日本企業はモノ作りの優位性や信頼を重んじるビジネス慣習などが新興国から好感されている。新興市場を開拓すると決断したら、そうした日本的優位性を活用しながら、大手世界企業の取り組みの成功ポイントも取り入れて、目標達成に最善の戦略を立て、組織を挙げて素早く実行していく、そうして長期的な信頼関係を築いて共に発展していくことが重要だといえる。

 

参考文献

1. 藤本隆宏 東京大学21世紀COEものづくり経営研究センター(2007):ものづくり経営学」光文社

2. ボストンコンサルティンググループ(2008):「新興国発超優良企業」講談社

3. RC・バルガバ(2006):「スズキのインド戦略」中経出版

4. 小島眞(2008):「タタ財閥」東洋経済新報社

5. 小林英夫(2008):「BRICsの底力」ちくま新書

6. 下川浩一(2009):「自動車に未来はあるか?」宝島社新書

7. 門倉貴史(2009):「有力新興国で「得意技」を活かそう」朝日新聞出版

8. 週刊東洋経済(2008/08/02):「エアコン世界一うかがうダイキン流「ええかげん」力」

9. 週刊東洋経済(2008/12/20):「“新興国の王者”スズキに山積みの地政学リスク

10. 週刊東洋経済(2008/11/15):「新興国の世界一企業に学べ 成功支える7つの戦い方」

11. 週刊東洋経済(2009/07/04):「新興国企業との戦いに備え日本企業は「脱欧入亜」せよ

12. 週刊東洋経済(2009/08/08):「市場シェア6割に接近 スズキ、インドで独走」

13. 日経ビジネス(2007/02/05):「ノキア 多品種大量で勝つ」

14. 日経ビジネス(2007/11/19):「カルロス・ゴーン 超低価格車の可能性」

15. 日経ビジネス(2008/01/14):「それでも世界へ 拡大の知恵 ダイキン工業」

16. 日経ビジネス(2008/01/28):「時流超流 トヨタ、低価格車は脱常識」

17. 日経ビジネス(2008/09/15):「パナソニック 北米 背水の「マス市場」攻略」

18. 日経ビジネス(2009/02/16):「第2特集 インド編 沈む企業、粘る消費」

19. 日経ビジネス(2009/04/06):「フィリップス 貧困層から始めるインド攻略」

20. 日経ビジネス(2009/06/29):「中国市場 勝ち組2割 保護主義化に勝つには」

21. 日経ビジネス(2009/07/13):「時流超流 スズキ インド席巻が映す「光」と「影」」

22. 日経ビジネス(2009/09/21):「コスト追求 総原価は推定$40でも機能は落とさず」

23. 週刊ダイヤモンド(2009/02/21):「電機全滅 瀕死のテレビ・半導体は再生できるか」

24. 週刊ダイヤモンド(2009/07/18):「特集2半導体世界戦争 なぜ日本だけが儲からないのか」

25. 日経新聞(2009/10/15):「BRICsに続く新興国市場 パナソニックが開拓」

 

インタビュー

1. 椿進(2009.10):株式会社パンアジア パートナーズ 代表パートナー

2. 伊藤淳(2009.9):株式会社コーポレート ディレクション CDI-China薫事

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