農産物直売所の2009年以降の後退とその要因に関する考察

2009年以降における農産物直売所成長の減少要因に関する考察
○森下武子(東京農大・院)
Study on the Factors in Sales Decreases of Farmers’ Markets since 2009
○ Morishita,T.
[目的]
農産物直売所(以下、直売所)は停滞する小売業の中で、成長を遂げている流通チャネルとして注目されている。2010年には直売所が16,816カ所、8,767億円に達しており、2004年には野菜生産額に占める割合が5~8%、2009年の農業総算出額に対する比率は約10%と推定され、農産物の新流通ルートとしての地位を確立してきた。こうした直売所増加の背景には、消費者側の食品に対する新鮮、安さ、安全・安心へのニーズと、生産者側では、少量・規格外の農産物でも出荷できる、直売により手取り額の増加、生産者自らが価格を決められることが挙げられる。
他方、直売所の成長に伴い、直売所の大型化が進展し、2000年以降、JAを中心に大規模直売所が増設され、二極化や競争の激化が生じている。こうした中で、2009年秋から、大規模直売所を主体に、直売所の売上成長の鈍化や前年割れが売上実績で観察されている。
そこで、本報告では、2009年以降、大規模直売所を中心としてどういう理由で直売所の成長が鈍化や前年割れに転じたのか、成長の減少要因を解明することを課題とする。
この解明は、新しい成功要因にどう対応して事業展開を図るか、直売所の今後の方向性を展望するうえでも重要となる。
[研究方法]
本研究の課題を解明するために、JC総研、JA全中、(財)都市農山漁村交流活性化機構、全国直売所研究会、直売所13カ所の聴取調査と、直売所やスーパーの野菜価格調査を実施した。
[結果及び考察]
聴取調査により、2009年以前と以降で、大きな事業環境の変化があり、競争要因が変化し、直売所の低価格の強みが減じて、2009年以降の売上減少が生じたことが明らかになった。
①2009年までは、新鮮、安い、安心・安全な農産物の品揃えの豊富さが成長の要因であった。
②2000年頃以降から、大規模直売所を中心に売れる農産物を売るマーケティングとなり、品揃えが直売所間、スーパーで類似になってきた。
③2000年~2008年まで食の安全性を脅かす事件が生じて安全性が重視されたが、2009年以降は、リーマン・ショック以降のデフレによる節約志向から価格の安さが重視されてきている。
④大規模直売所間やスーパーとの競争が激化しており、スーパーが集客の目玉に野菜の特売に注力し、スーパーの野菜の特売価格が直売所の野菜価格より安い時期が増えてきた。(表1)
⑤直売所は、今後は味・品質のアップや、食の提案(新しい品目・品種やこだわり商品、調理方法や旬を前面に出した試食等)などで差別化を志向しているが、まだ十分に実現できていない。

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