インテグラル(摺り合せ)型vsモジュラー(組み合せ)型

インテグラル(摺り合せ)型vsモジュラー(組み合せ)型

 

90年代には日本企業のグローバル化が求められ、数多くの戦略コンセプトや経営手法が海外から入ってきました。ですが、そうしたコンセプトや手法の多くが日本企業に根付かないままで終わった例が多いと思います。今回は日本発のオリジナル戦略コンセプト、藤本隆宏東大教授が唱える「もの造りの現場から発想する戦略コンセプト」をご紹介します。製品の基本的な設計思想をアーキテクチャと呼びますが、インテグラル(摺り合せ)型vsモジュラー(組み合せ)型はそうしたアーキテクチャの違いに着目したものです。

 

<インテグラル(摺り合せ)型>

製品を作る際に特別に最適設計された部品を微妙に相互調整しないとトータルなシステムとしての性能が発揮されない製品がインテグラル(摺り合せ)型です。自動車やオートバイ、精密機械がその代表例で、日本企業が得意とする製品分野です。

研究所や工場の技術者らが知恵を結集して一つ一つの材料をいかに最適に組み合わせるか、ノウハウを培う摺り合せは日本の製造業の競争力の源泉です。インテグラル(摺り合せ)型は日本の統合型もの造りシステム、チームワーク重視の現場の組織能力(もの造りの組織能力)を活かした製品といえます。

 

<モジュラー(組み合せ)型>

既に設計された既存の部品を巧みに組み合わせて、新しい最終製品を創造するのがモジュラー型です。モジュラー型の代表例は、自転車、PC、PCシステム、インターネット商品になります。

モジュラー型は既存の部品をどのように組み合わせて新しい創造的商品を作り上げるか、その構想力が重要です。摺り合わせや相互調整があまり必要でなく、新しいシステムを構築する能力、優れたビジネスモデルを作る能力のように戦略やコンセプト構想能力が鍵となります。アメリカ企業の得意とする分野で、90年代のアメリカ経済好況はモジュラー型のデジタル製品(PC、PCシステム、インターネット製品など)が牽引したものといえます。

 

<末尾の表>

 

<本文>

日本企業、特に大手もの造り企業はインテグラル(摺り合せ)型の組織能力を磨いて、自動車、電気製品、鉄鋼、プロセス産業財で競争力を築いてきました。部品でも自転車ギアのシマノ、コンデンサーの村田、モーターのマブチなどのインテグラル型部品企業は高シェア・高収益を確保しています。

日本企業の競争力はもの造り能力・現場の組織能力にあり、戦略構想力・本社の組織能力は弱いとよくいわれます。また、日本企業は横並びで体力勝負の競争をするともいわれますが、それが現場の体力強化につながっており、日本企業のもの造りの組織能力、つまり効率的なオペレーションを安定的に実現する能力が強化されてきたわけです。

-歩留まりを限りなく100%に近づける能力

-正味作業時間比率をできるだけ高いレベルに保つ能力、など

 

他方、モジュラー型は資本集約的な生産システムの工程のモジュラー化、家電などの商品のデジタル化、あるいはPC・ネット関連商品の成長とともに、シェアを拡大しています。資本集約的なモジュラー型製品、DRAM半導体やモニター用の汎用液晶などの生産工程がモジュラー化された製品では、最新鋭の設備を圧倒的な規模とスピードで投資していけば勝負がつきます。本社の戦略意思決定の素早さと資金力が重要で、サムソンなどの韓国企業が得意としています。さらに、デジタル家電製品のように汎用部品を寄せ集めて作る労働集約的なモジュラー型製品は中国企業、PCやPCシステム、インターネット商品などの知識集約的なモジュラー型商品はアメリカ企業というように、おおまかに国により得意分野が分かれています。

市場成長が著しいPC・ネット関連商品では、モジュール化によりイノベーション競争が厳しくなっています。自社で技術やノウハウを蓄積してもイノベーションにより陳腐化が激しい分野です。そこで常に最先端を追及して勝ち残るためには、テクノロジー・マーケティング力(目利き)を持ってモジュールの中で勝ち抜いた最優秀のベンチャーを買収し、最先端の開発成果をモジュールごと外部から購入することが最短で強い競争力を維持する鍵です。マイクロソフトやシスコシステムズの目利き能力は非常に高いといわれます。

モジュラー型は従来日本企業が得意としてきた摺り合せ商品の部品や生産工程にも浸透してきています。たとえば、半導体製造の前工程でもモジュラー化の設定と全体プロセス再構築が競争力に大きく影響します。ただ日本の半導体企業はモジュラー化を重視しつつも対応は十分ではなく、最先端の開発成果を取り込む目利きについても重要性は認識しつつ、その専門部署や体制設置は遅れているといわれます。

PC・ネット関連商品のモジュラー型製品は日本でも市場が拡大しており、モジュラー戦略構想力があれば既存のデジタル商材を組み合わせて新商品、新ビジネスモデルを構築することが可能なため、新規参入が多く、専門型ベンチャー企業がネットワークを組んだり買収で急成長を実現しています。こうした企業では本社の戦略構築能力が競争力として重要であり、本社の事業構想力やビジネスモデル構築力、ビジネスの目利きなどの能力を強化しています。

 

<まとめ>

世の中はモジュラー化の方向に向かっています。他方、多くの日本の製造業はインテグラル型の強さを鍛えてきています。そうしたインテグラル型企業はその強さは維持・強化しつつ、戦略やビジネスモデル構築力を強化してモジュラー化やモジュラー型のビジネス対応力を取り入れ、全体をバランスさせることが自社の競争力強化には必要です。また、日本の産業競争力強化の観点からも、摺り合せ能力を活かせるように対象業界をビジネスモジュールに分解して、他業界も含めて再構成していく事業構想力や目利き能力の強化、モジュラー型のビジネス対応力が求められます。

参考文献:「日本のもの造り哲学」藤本隆宏、モジュール化」新しい産業アーキテクチャの本質 青木昌彦、安藤晴彦編著

 

<末尾の表>

インテグラル(摺り合せ)型 モジュラー(組み合せ)型
代表例:
自動車、高級オートバイ、精密機械
ディスプレイ、自動車用の溶融亜鉛メッキ鋼板、セラミックコンデンサー、など
代表例:
自転車、パソコン(PC)、PCシステム、インターネット製品、
ゲーム産業、デジタル家電、
DRAM製造工程、など
・1機能が多くの部品から構成される
・その製品専用に多くの部品を最適設計する
・クローズド(囲い込み)
・機能と部品がほぼ1対1
・標準品を事後的に組み合せる
・オープン(業界標準)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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